K先生の言葉

ぼくにとって、高校までの教員というものにあまり尊敬を抱けないでいる。ぼくの育った田舎の学校は無意味な規則を生徒に守らせることが教育だと思っている者が多かったからだ。平成の時代でも体罰をする教員は依然として残っているようなところだ。たぶん、当時の学校生活が楽しかったと思う人がいるのは思い出補正かなんかだと思ってる。

K先生は中学校の社会科担当教諭であった。何を考えているのかわからず、授業はめんどくさそうにやるし、思想的には右寄りな方でそういう発言も多かった。当時、我が校にはもうひとり社会科教諭がいたのだが、彼は下ネタ好きで男子生徒からの人気は高かった。それに比べるとK先生の人気はかなり低かったのではないだろうか。

正直、K先生の思い出は殆ど残っていない。給食中に変な本を読んでたことと、居眠りした生徒の机に自分の机をすごい勢いでぶつけたことぐらいしか無い。しかし、彼が卒業前に言ったこの言葉が強烈に印象に残っているのである。

「人間関係は金になるけど、絶対に金にするなよ」

彼によれば、友人から金を借りるという行為は人間関係を換金する行為なのだという。そして、換金時に人間関係とともに信用を消費するという。

その言葉の含蓄の深さを感じたのは大学生になって一人暮らしを始めたときであった。街を歩けば「電車代ないから3000円貸して」と寸借詐欺するおっさんに出会うし、家にいれば「三ヶ月でいいから契約して」とフランクに持ちかける新聞勧誘に出くわすようになった。そういう経験を積んで自分の持っているお金がどういう価値を持っているのか、少しずつ分かってくる。

自分から金をせびろうとする人たちを見て、「汗水たらして稼いだ金を何だと思ってる」と思うと同時に、「他の人間もお金に対して同じように思ってるんだろうな」とも思う。

ぼくが友人に「5万貸して」って頼んだら貸してくれるだろうか。もし貸してくれても二回目、三回目になると「自分の金を何だと思ってる」と思われるだろう。それがお金の代償に信用と人間関係を消費するということなのだ。

命とお金の次に大事なものが信用だ。K先生はそんなことも言ってたと思う。中学卒業してすぐ就職という人も多かったド田舎の学校の教員としては的確なアドバイスだったのかな。卒業シーズンには遅すぎるけど、新生活に向けてのお話でした。